令和4年版観光白書について
令和4年版の観光白書が閣議決定されました。最近の観光の動向、新型コロナウイルス感染症が観光にもたらした影響や変化、観光業が抱える構造的な課題と改善の取組等について分析するとともに、観光立国の実現に向けて講じようとしている施策を報告しています。
観光白書は、観光の状況及び政府が観光立国の実現に関して講じた施策並びに観光に関して講じようとする施策について、毎年国会に報告しているものです。
◎ 世界の観光の動向
2020年の「外国人旅行者受入数ランキング」で日本は21位(アジアで5位)。
2021年の国際観光客は前年比4.6%増の4億2,100万人。対2019年比では71.3%減。
◎ 日本の観光の動向
2021年の訪日外国人旅行者は25万人(前年比94%減、2019年比99.2%減)
2021年の訪日外国人旅行消費額は1,208億円(前年比83.8%減、2019年比97.5%減)
2021年の出国日本人数は51.2万人(前年比83.9%減、2019年比97.4%減)
2021年の国内宿泊旅行延べ人数は1億4,177万人(前年比11.8%減、2019年比54.4%減)
日帰り旅行延べ人数は1億2,644万人(前年比4.7%減、2019年比54.1%減)
日本国内旅行消費額は、9.4兆円(前年比14.5%減、2019年比66.3%減)
客室稼働率は34.5%
◎ 新型コロナウイルス感染症の影響
観光関連産業の営業利益は、2020年は概ねマイナスで推移し、2021年後半以降は、やや持ち直しの兆しもあったが、引き続き厳しい状況に置かれている。
観光関連産業における負債比率をみると、宿泊業が他産業と比べて高い傾向にある。また宿泊業を規模別に見ると、中小企業や中堅企業の負債比率が2020年以降大きく上昇しており、厳しい状況となっている。
宿泊業の年間倒産件数は、2020年に大きく増加し2021年は減少したが、旅行業の倒産件数は2020年、2021年とも増加。政府は、政府系金融機関による資金繰り支援や雇用調整助成金等の支援を継続して行っているが、引き続き事業継続と雇用確保へのきめ細かな支援が必要。
宿泊業、飲食店、その他の生活関連サービス業の雇用者数は、2021年に入り、他業種と比べて大きく減少している。賃金についても、宿泊業・飲食サービス業は、2020年以降大きく減少している。
目的地別旅行消費額は、北海道や沖縄等をはじめ全てのブロックで、2021年は2019年に対し大きく減少した。
新型コロナウイルス感染拡大の影響により、日本人の旅行者は、密となりやすい主要観光地や都市圏を避けるなど、観光地選択が変化。
近隣地域内での観光(いわゆるマイクロツーリズム)のトレンドは、引き続き進展しているが、今後の動向は注視が必要。
休日・祝日、ゴールデンウィーク、年始に集中していた観光客の減少率が特に大きく、混雑する時期を回避する傾向。
新型コロナウイルス感染症を受けた地方志向の高まりやテレワークの普及により、ワーケーションや第2のふるさとづくり(何度も地域に通う旅、帰る旅)といった新たな交流市場を開拓する取組を推進。
新型コロナウイルス感染症の流行を契機として、世界的に、密となる有名な観光地より自然環境に触れる旅行へのニーズが高まっている。
旅先での過ごし方について、持続可能な行動への意識が世界的に高まる傾向にあり、持続可能な観光への取組が今後の観光において重要となる。
ポストコロナも見据えて、自然環境、文化、地場産業などの地域資源を保全しながら、地域住民が観光の恩恵を感じられるよう、「住んでよし、訪れてよし」の観光地域づくりを持続的に進めていく必要。
◎ 観光産業が抱える構造的な課題
宿泊業に関わる「接客・給仕の職業」の有効求人倍率は、2013年の2.3倍から2019年の4.0倍まで一貫して上昇していたが、2020年及び2021年は、新型コロナウイルス感染拡大で観光需要が激減したことにより、2021年には1.9倍まで低下。
宿泊業の人手不足の要因の一つである離職率は、2016年及び2017年には3%に達したが、新型コロナウイルス感染拡大で観光産業全体が低迷した2020年及び2021年には、やや低下傾向となっている。
今後のホテル運営における不安や懸念に関して全国約6,600ホテルを対象に行ったアンケート調査の結果を見ると「従業員の採用・教育」「建物や設備の老朽化」などが多かった。
宿泊業の労働生産性(従業員1人当たり付加価値額)は、全産業平均と比べ低い。2017年度までは全産業平均との差が縮まる傾向にあったが、新型コロナウイルス感染拡大に伴い宿泊旅行が低迷した2020年度は、大きく低下した。
これに関しては、2020年度の労働生産性の値は、2019年度と比べ付加価値額が約50%減少したのに対し、従業員数は雇用調整助成金の活用等により、約15%の減少にとどまったために押し下げられたものと考えられる。
コロナ禍からの観光のV字回復を図るため、疲弊した観光地の再生・高付加価値化と持続的な観光地経営の確立を強力に推進するとともに、その中核を担う観光産業について、積年の構造的課題を解決し、再生を図ることが必要。
これにより、地域・産業・住民のいずれもが観光による地域活性化の果実を享受できるようにするとともに、観光地の更なる磨き上げにつなげていくことで、観光を通じた持続的な地域活性化の好循環を創出することが可能。
観光産業は、生産性の低さ、デジタル化の遅れ等の構造的な課題を抱えており、これらを解決するため、DXを推進するとともに、観光産業の従事者の待遇改善も併せて推進することが必要。
観光地の顔となる宿泊施設を中心とした、地域一体となった面的な観光地再生・高付加価値化について、自治体・DMO等による観光地再生に向けた地域計画の作成や同計画に基づく改修事業等を強力に支援。
地域経済を支える観光の本格的な復興の実現に向けて、地域の稼げる看板商品の創出を図るため、自然、食、歴史・文化・芸術、生業、交通等の地域ならではの観光資源を活用したコンテンツの造成から販路開拓まで一貫した支援を実施。
観光分野のデジタル実装を進め、消費拡大、再来訪促進等を図るとともに、これを支える人材を育成し、稼ぐ地域を創出。
観光産業は他産業と比べて、DX(デジタルトランスフォーメーション)の取組が遅れている。
IT・デジタル化が進まない理由として、事業者は、人材不足、費用不足、必要性が認識されていないこと等を挙げている。
観光分野では、オンラインによる旅行・宿泊予約やスマートフォンの普及により、旅行者側のデジタル化が進展する一方、宿泊施設や観光地域側の対応に遅れがみられる。
個々の事業者や観光地域づくり法人(DMO)等の主体がデジタル実装を進めつつ、地域全体で連携し観光客に関するデータを多面的に取得・分析し、精度の高いニーズや行動・消費を把握する仕組みを構築することで、地域内の生産額の向上や、雇用の質の向上等に繋げていくことが重要。
◎ 令和3年度に講じた施策/令和4年度に講じようとする施策
国内交流の開拓・新たな交流市場の開拓
・「新たなGo Toトラベル事業」や地域観光事業支援による観光需要喚起
・ワーケーション、「第2のふるさとづくり」(何度も地域に通う旅、帰る旅)の普及
観光産業の変革
・観光産業の構造的課題の解決(宿泊業・旅行業の経営力強化を支援する仕組みについて検討)
・デジタル技術を活用した観光サービスの変革(観光地の混雑回避、顧客予約管理システム等の導入)
交流拡大により豊かさを実感できる地域の実現
・宿泊施設の改修、廃屋撤去等に対する支援を含む面的な観光地の再生の強化
・地域の幅広い関係者との連携による地域の稼げる「看板商品」の創出
国際交流の回復・質的な変革
・消費額増加への取組強化、地方部への誘客促進(地方における高付加価値なインバウンド観光地づくり)
・持続可能な観光への取組強化(外国人受入環境の整備等)
・デジタルマーケティングを活用した戦略的な訪日プロモーションの実施
くわしくはこちらで