令和5年版観光白書について

令和4年 観光の動向

世界の観光の動向

2021年の「外国人旅行者受入数ランキング」において、日本(25万人)はランク外。2020年(412万人)の21位(アジアで5位)から順位を下げた。国連世界観光機関(UNWTO)によると、2022年の国際観光客は前年比4億6,200万人増の9億1,700万人(前年比101.5%増)となったが、対2019年比では37.4%減となり、新型コロナウイルス感染症に伴う渡航制限等による旅行需要の減少が続いたが、2020年を底に回復傾向。

日本の観光の動向

訪日外国人旅行者数

2022年の訪日外国人旅行者数は、6月の外国人観光客の受入再開後、10月の入国者数の上限撤廃、個人旅行の解禁、ビザなし渡航の解禁等の水際措置の大幅緩和等により大きく増加。同年12月には2019年同月比で54.2%まで回復、年間では約383万人(2019年比88.0%減)となった。2023年4月は、2022年10月以降単月では最多の194.9万人となり、2019年同月比で66.6%まで回復。

訪日外国人旅行消費額/海外旅行

2022年年間の訪日外国人旅行消費額は8,987億円(2019年比81.3%減)。同年10月の水際措置の大幅緩和以降、10-12月期は2019年同期比で約5割に回復し、2023年1-3月期は約9割まで回復。2022年年間の出国日本人数は、277万人(2019年比86.2%減)。同年12月には2019年月比で約25%、2023年4月には約34%まで回復。

国内旅行

2022年の日本人の国内宿泊旅行延べ人数は2億3,247万人(2019年比25.4%減)、日帰り旅行延べ人数は1億8,539万人(2019年比32.7%減)。2022年の日本人国内旅行消費額は17.2兆円(2019年比21.6%減)。このうち宿泊旅行の国内旅行消費額は13.8兆円(2019年比19.8%減)、日帰り旅行の国内旅行消費額は3.4兆円(2019年比28.0%減)となった。日本国内における旅行消費額は18.7兆円(2019年比33.2%減)。

宿泊旅行

2022年3月のまん延防止等重点措置の全面解除や10月に開始した全国旅行支援による国内旅行需要の増加等が寄与し、日本人延べ宿泊者数は10月にはコロナ前水準を超え回復傾向となっている。民間調査会社による全国主要ホテルの平均客室稼働率は、2022年10月の全国旅行支援開始やインバウンドに係る水際規制の大幅緩和以降は70%台、対2019年比で9割程度に回復しつつある。

企業の状況

宿泊業の売上高は、2022年3月のまん延防止等重点措置の全面解除以降、増加傾向となっている。宿泊業の営業利益は、2022年10-12月期には、コロナ禍以降初めて黒字に転換した。宿泊業と旅行業の年間倒産件数は、2022年は対前年比で減少した。これは旅行需要の回復が寄与したものと考えられるが、引き続き事業継続と雇用確保へのきめ細かな支援が必要。

持続可能な観光地域づくり – 観光地や観光産業における「稼ぐ力」の好循環の実現

回復に向かう観光需要(国際観光客数・国際観光収入)

国際観光客数は、世界全体で回復傾向であるものの、アジア太平洋の回復の遅れが目立つ。国際観光収入も同様。
UNWTO(国連世界観光機関)による2023年の国際観光客の回復見込みは、シナリオ1では2023年は2019年比で95%に回復、シナリオ2でも同じく2019年比で80%に回復。
専門家による通年の見通しでは、2024年までに2019年水準に回復するとの回答が、アジア太平洋以外の地域では80%程度以上、アジア太平洋も60%となっている。

賃金・人手不足 – 「稼げる地域・稼げる産業」へ変革の必要性

新型コロナウィルス感染症の影響から観光需要が回復に向かう中、地方の経済や雇用の担い手となるべき観光産業では、生産性の低さや人材不足といった感染拡大以前からの積年の構造的課題が一層顕在化している。これらの構造的課題を解決するには、観光産業の「稼ぐ力」(収益)の強化が喫緊の課題。

雇用の波動性 – 「稼げる地域・稼げる産業」へ変革の必要性 –

コロナ前における宿泊業の月別雇用者数を日米で比較すると、米国は7月を山とする単峰型だが、日本は多峰性を持った雇用形態であり、日本の宿泊業は雇用の波動性が大きいと分析。新型コロナウィルス感染症の影響が大きい2020年から2021年は、雇用の波動性が緩和している。感染症下で起きた環境変化である「旅行需要の分散化」(令和4年版観光白書)にも起因すると考えられる。

観光GDP(付加価値額)の国際比較

日本の観光の「稼ぐ力」を分析するため、観光消費額・収入額から外部支払費用(中間投入)を控除した儲けに相当し、雇用者所得、企業の利潤や投資など経済循環の源泉となる付加価値額(観光GDP)に着目し、日本と欧米主要国とを国際比較。
日本の観光GDP額は11.2兆円(2019年)となり、新型コロナウィルス感染拡大前まで着実に増加してきた。しかし、経済全体に占める観光GDP比率(観光GDP額/GDP額)は2.0%(2019年)で、先進7か国(G7)平均の4.0%と大きな差。

観光GDPとは

国内で生産した観光サービスのうち付加価値額。国民経済計算(SNA)の一環として、UNWTO(国連世界観光機関)が策定する国際基準に準拠し、日本(観光庁)をはじめ各国が毎年実施し、推計表を公開。

観光従事者一人当たり「稼ぐ力」の国際比較

付加価値率(2019年)は、日本では観光産業他(49.0%)と宿泊業(47.0%)が全産業(53.0%)より低く、国際比較でみても低い。一方、イタリアとスペインは、観光産業他や宿泊業の付加価値率が全産業より高い。従事者一人当たりの付加価値額(TSAベース)は、日本は全産業(806万円)に対し観光産業他(491万円)及び宿泊業(534万円)は相対的に低い。宿泊業では米国(976万円)が顕著に高く、次いで、スペイン(709万円)、イタリア(690万円)が高い。

日本の課題 – 観光の付加価値の強化 –

観光の付加価値を示す観光GDPの国際比較からは、日本は観光の付加価値額や経済全体に占める割合が低位であり、付加価値を高め「稼げる産業」への変革に向けては、売上高の増加(客単価×顧客数の増加)が取組課題になる。
観光庁では、観光地・観光産業の再生・高付加価値化やDX推進等の支援を講じている。採択事例では、宿泊単価の増加や、宿泊従事者の賃金上昇等の効果が現れつつある。
コロナ下でマイクロツーリズムに重点化し、DX化したマーケティングデータにより、近隣客ニーズが高い食体験観光の高付加価値に繋げ、早期回復した事例(次節地域事例)がみられた。特色ある「稼ぐ力」は、需要平準化への展開も期待される。

観光分野の「稼ぐ力」(付加価値)の好循環による持続可能な観光

観光GDPが示す観光経済の循環(フロー)では、①観光サービスの生産において「稼ぐ力」を示す付加価値額を更に強化することで、②雇用者報酬への分配増加や ③観光DXをはじめ企業の再投資等の支出に繋がり、生産波及効果の好循環を通じた「持続可能な観光」に寄与。
一方、観光サービスにおける中間投入も、裾野が広い他産業への生産波及効果を生み出している。中間投入を抑制することなく売上を伸ばし、上質なサービスを支える良質な中間投入の増加に繋げることも好循環に寄与する。
今後、官民一体となって観光産業の付加価値を更に高め、「稼げる」産業へと変革を進め、地域経済への裨益と地域住民の誇りや愛着の醸成を通じて地域社会に好循環を生むことで、地域と観光旅行者の双方が観光のメリットを実感できる「持続可能な観光」を目指していく施策を展開する必要がある。

「稼ぐ力」をデータで「見える化」

観光地の特色を活かした「稼ぐ力」の強化に向け、観光庁支援施策を活用し取り組む事例地域のヒアリングを実施。宿泊客の早期回復や単価増、従業員の賃金上昇など、「稼ぐ力」の強化の効果データを収集。
自らの観光地の「稼ぐ力」をデータで「見える化」し、地域関係者で分析・共有するプロセスが重要。
汎用性ある統計ツールとして、政府が地方創生支援施策で開発した「地域経済分析システム (RESAS) 」を活用。
市町村の宿泊・飲食業の「稼ぐ力」の現状を見える化し、ヒアリングを通じ現場の詳細な効果データを収集。

観光地や観光産業の「稼ぐ力」の好循環による持続可能な観光地域づくり<まとめ>

今後の観光では、「持続可能な観光」「消費額拡大」「地方誘客促進」など「質」を重視した観光地の「稼ぐ力」を実現し、地域社会・経済の持続可能性を将来にわたって存立する役割が期待される。
〇宿泊施設等の上質化投資や景観改善など観光地の再生・高付加価値化等に取り組む地域事例分析では、個人旅行者の上質なサービス需要に対応した宿泊単価上昇や、魅力的な景観を活かした飲食店等の開業など雇用に繋がってきた。
〇国内外の旅行者にとっても、地域に根付いた自然や文化、地場産業など「暮らし」に関わるコンテンツが魅力的な非日常的体験として価値が高まりつつある。この好機を「稼ぐ力」に変えるため、世代を超えた住民と様々な異業種が参画し、地域のストーリーを磨き上げ、付加価値の高い体験型観光商品により滞在魅力を高め、地域への観光消費を住民の雇用と所得、地域の税収に還元し循環していく「持続可能な観光地域づくり」が期待される。


令和4年度に講じた施策・令和5年度に講じようとする施策

持続可能な観光地域づくり戦略

インバウンド回復戦略

国内交流拡大戦略


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