日本版持続可能な観光ガイドライン

「日本版持続可能な観光ガイドライン(JSTS-D)」は、持続可能な観光の推進に資するべく、持続可能な観光地マネジメントを行うための観光指標です。日本の特性を各項目に反映した上で、観光地向けの持続可能な観光の国際基準「GSTC-D(Global Sustainable Tourism Criteria for Destinations)」に準拠した指標となっています。

<概要>
観光地向けに開発された指標は、4つの分野の中に大項目・1小項目が設定されています。各分野と、掲げられた項目の例は次のとおりです。

A.持続可能なマネジメント
  マネジメントの組織と枠組、ステークホルダーの参画、負荷と変化の管理
B.社会経済のサステナビリティ
  地域経済への貢献、社会福祉と負荷
C.文化的サステナビリティ
  文化遺産の保護、文化的場所への訪問
D.環境のサステナビリティ
  自然遺産の保全、資源のマネジメント、廃棄物と排出量の管理


SECTION A: 持続可能なマネジメント

A1

デスティネーション・マネジメント(観光地経営)戦略と実行計画

持続可能な観光の基本理念に基づき、環境、経済、社会、文化等に関する内容を含む「日本版持続可能な観光ガイドライン(JSTS-D)」に取り組むこと明記した観光計画等があること
① 観光計画等に「日本版持続可能な観光ガイドライン(JSTS-D)」に取り組むことを明記していること
② 観光計画等は、複数年の計画であること
③ 観光計画等は、定期的な見直し(少なくとも5年ごと)及び一般公表をしていること
④ 観光計画等は、ステークホルダー(地域住民を含む)の参加によって策定していること
⑤ 観光計画等に関連する取組の結果を公表していること


A2

デスティネーション・マネジメント(観光地経営)の責任

持続可能な観光を推進する責任を担う管理組織があること 
① 管理組織には、持続可能な観光の推進に専念できる担当者(サステイナビリティ・コーディネーター)がおり役割が定められていること
② 管理組織の構成員は部局横断的かつ観光地域の規模に見合ったものであること
③ 管理組織運営のための財源が確保されていること


A3

モニタリングと結果の公表

観光に起因する環境、経済、社会、文化、人権に関する課題について定期的に調査し、一般公表していること
① 調査の仕組みを定期的に見直していること
② 定量化できる社会経済・文化・環境に関する目標を設定していること
③ 調査を定期的に行い、その結果を公表していること


A4

観光による負荷軽減のための財源

観光による負荷(オーバーツーリズム関連の課題等)軽減のための財源が確保されていること
① 目的を明確にした財源を確保、運用していること


A5

事業者における持続可能な観光への理解促進

事業者がGSTC公認のトレーニング・プログラムを受講していること
① 地域のステークホルダーによるGSTC公認のトレーニングプログラムの参加状況を把握し、公表していること


A6

住民参加と意見聴取

デスティネーションマネージメント(観光地経営)について行政・民間事業者・地域住民の三者で構成される体制があること
① 官民、住民等の地域のステークホルダーが参画する「日本版持続可能な観光ガイドライン(JSTS-D)」に基づいた持続可能な観光の推進を担うワーキンググループ(WG)等があり、定期的な意見交換の機会があること


A7

住民意見の調査

観光地経営に関する住民の期待、不安、満足度などのデータは、定期的に調査されていること
① 調査結果は、一般公表されていること
② 調査は、少なくとも毎年度行われていること
③ 調査結果を次年度の運営改善(肯定的な回答割合の増加等)に役立てていること


A8

観光教育

地域コミュニティ、学校、高等教育機関において、観光の可能性や課題に関する教育プログラムがあること
① 地域コミュニティ、特に児童・生徒に対して観光に関する教育が実施されていること


A9

旅行者意見の調査

旅行者満足度について、アンケートなどを通じて調査を実施していること
① 調査結果は、一般公表されていること
② 調査は、少なくとも毎年度行われていること
③ 調査結果に基づいた、旅行者満足度向上のための対策を講じていること


A10

プロモーションと情報

市場調査及びデータに基づく観光地域が求めるターゲット層の誘致促進策は、地域コミュニティや自然・文
化的資産を尊重していること
① プロモーションについては、市場調査及びデータに基づく正確な情報を提供していること
② プロモーションの効果測定を行っていること
③ 求めるターゲット層の誘致拡大に向けた新商品の開発に地域発意で取り組んでいること


A11

旅行者の数と活動の管理

旅行実態(訪問者数、活動内容)を把握していること
① 宿泊客数及び日帰り客数を計測・公表していること
② 客数の計測は、全体、外国人・日本人別、年齢別に分かれていること
③ 月ごと(季節ごと)の観光客数を計測していること
④ 繁閑差を考慮した誘客のための取組を行っていること
⑤ 旅行者の目的・行き先(昼夜別の動向など)を把握していること
⑥ 旅行者の数と活動の影響は、調査によって明らかにされていること


A12

計画に関する規制と開発管理

自然及び文化的資源の保護計画やゾーニング(区分け)に関するガイドライン、規制、方策があること
① 計画、規制等は、住民の意見を聴取・反映し、十分な検討の元に定めていること
② 計画、規制等の内容は、一般に公表、遵守されていること


A13

適切な民泊運営

民泊に関する相談窓口が設置されていること
① 不適切な民泊があった場合に適切な指導を行っていること


A14

気候変動への適応

観光に影響を及ぼす気候変動による負の影響を想定していること
① 気候変動による負の影響を軽減する計画や方針があること
② 住民、観光事業者、旅行者向けの気候変動による影響に関する教育や意識向上の取組があること


A15

危機管理

災害等の非常時における計画が策定され、インバウンドを含む観光部門も考慮に入れたものであること
① 災害等の非常時における計画において、外国人旅行者を含む観光客への対応も含んでいること
② 災害等の非常時における計画は、定期的な見直しがなされていること
③ 所管する観光案内所、旅客施設等に非常用電源装置や情報端末(スマートフォン等)への電
源供給機器等の整備がなされていること
④ 災害等の非常時に備えた事業者、住民等に対する訓練や研修を行っており、旅行者に対して
も非常時における行動等について周知・啓発を行っていること
⑤ 災害等の非常時において正確な情報を伝わる表現で情報発信がなされていること


A16

感染症対策

旅行者、事業者、地域住民のすべてが安全に過ごすことができるよう感染症対策を講じていること
① 事業者等に対して業種ごとに作成された新型コロナウイルス感染症予防ガイドラインに沿った対策の徹底を促すとともに、旅行者に対して感染症予防に係る周知を行っていること


SECTION B: 社会経済のサステナビリティ

B1

観光による経済効果の測定

観光による経済効果の測定をしていること
① 地域への直接的な経済波及効果(観光消費額)について測定し、公表していること(直接効果の把握)
② 産業連関分析等を用いて観光による間接的な経済波及効果について測定し、公表していること(間接効果の把握)
③ 観光に伴う不動産開発が地域社会に与える影響について把握、公表していること(地価、家賃等の動向把握)
④ 観光関連業種における雇用者数(雇用誘発効果)を調査し、公表していること


B2

ディーセント・ワークと雇用機会

働きがいのある人間らしい仕事(ディーセント・ワーク)と雇用機会に関する取組を行っていること
① 観光関連事業者への就業を促進する取組があること
② 性別、年齢、季節等に左右されない、安定した雇用や公正な賃金の実現に向けた取組を行っていること


B3

地域事業者の支援と公正な取引

地域事業者の支援と公正な取引の実現に取り組んでいること(観光の効果がおよぶ地元の職人、農業者等も対象とする)
① 地域の特産品やサービスの利用を促進していること
② 地元の観光関連の中小企業向が、より市場に参入しやすくなるよう支援していること


B4

コミュニティへの支援

事業者、旅行者、住民が、地域コミュニティに責任ある形で貢献することを奨励していること
① 事業者や旅行者が住民と共に、地域社会や地域の文化・自然環境の保全に貢献できる機会があること


B5

搾取や差別の防止

ハラスメントから旅行者を含むすべての人を、適切に保護する取組があること
① 取組は地域住民と旅行者を含み、観光地域全体に周知されていること


B6

地権と使用権利

資産取得に関して実施規定を含む計画や政策があること
① 資産取得に関する政策等は、住民の意見を反映して策定され、住民の権利を保護するものであること


B7

安全と治安

犯罪、安全性、健康被害などの監視、防止、公表についての旅行者と住民の双方に対応する体制があること
① ガイドの安全を管理するガイドラインがあること
② 防犯への取組を行っていること
③ 観光地等において、タクシーの乗降場所等を明示していること(白タク対策)
④ 安全や治安に関する情報を公表していること
⑤ 地域住民・旅行者(外国人旅行者を含む)を受入れるのに十分な医療体制があること
⑥(宿泊施設・旅行業者等を通じて、)「外国人患者を受け入れる医療機関」を取りまとめたリストに則って、外国人旅行者に域内及び周辺の医療機関に係る情報を提供していること


B8

多様な受入環境整備

外国人旅行者を含む観光客の受入環境整備を推進していること
① ユニバーサルデザインの普及(バリアフリー対策等)を推進していること
② 公衆トイレの洋式化(ウォシュレットなど)を推進していること
③ 公共スペースにおける無料Wi-Fi環境整備を推進していること
④ キャッシュレス環境整備を推進していること
⑤ 多言語による案内の充実を推進していること
⑥ 多様な宗教・生活習慣への対応を推進していること
⑦ 域外から観光地への公共交通機関等によるアクセスが確保されており、公共交通機関の利活用が推奨されていること


SECTION C: 文化的サステナビリティ

C1

文化遺産の保護

歴史的建築物や農漁村、都市の景観など、観光資源となる文化遺産の保全管理体制があること
① 景観等の保全に関する計画があること
② 保全管理の状態を確認し、必要な対策を行っていること


C2

有形文化遺産

有形文化遺産(工芸品等)の保護に関する計画や規制等があること
① 有形文化遺産(工芸品等)のリストがあること


C3

無形文化遺産

無形文化遺産の保護に関する計画や規制等があること
① 無形文化遺産のリストがあること
② 地域の行事(祭り等)の保存に努めていること
③ 伝統文化の次世代継承を支援するための取組があること


C4

地域住民のアクセス権

地域住民の自然、文化的な場所や公共スペースへのアクセスのしやすさについて調査していること
① 問題が生じている場合、対応策が講じられていること


C5

知的財産

地域及び個人の知的財産権を保護する規則や取組があること
① 保護対象とする知的財産のリストがあること


C6

文化遺産における旅行者の管理

旅行者の行動を管理する体制があること
① 旅行者の流れを把握していること
② 観光が要因となっている道路渋滞に関する課題を調査により把握していること
③ 観光地に至る公共交通機関における混雑に関する課題を調査により把握していること
④ 地域における混雑に関する課題を調査により把握していること
⑤ 課題が生じている場合、対応策を講じていること(混雑対策)


C7

文化遺産における旅行者のふるまい

特に配慮が必要とされる場所における旅行者のふるまいについて、地域住民の声を反映した行動規範がリ
ストアップされ、旅行者に向けて周知されていること
① 旅行者に向けて、ポジティブな行動を推奨していること(マナー啓発)
② 問題が生じている場合、対策を講じていること(マナー違反対策)
③ ツアーガイドを対象に、旅行者へのマナー啓発を促進するための研修があること


C8

観光資源の解説

観光地において、解説を含む適切な情報が提供されていること
① 解説は、地域のストーリーとして地域住民と協力して作成されていること
② 解説文は、旅行者に適した言語で伝えられていること
③ 解説内容を活用しているツアーガイドの研修があること


SECTION D: 環境のサステナビリティ

D1

自然遺産

自然遺産の保護に関する計画や規制等があること
① 自然遺産のリストがあること


D2

自然遺産における旅行者の管理

旅行者の行動を管理する体制があること
① 旅行者の流れを把握していること
② 観光が要因となっている道路渋滞に関する課題を調査により把握していること
③ 観光地に至る公共交通機関における混雑に関する課題を調査により把握していること
④ 地域における混雑に関する課題を調査により把握していること
⑤ 課題が生じている場合、対応策を講じていること(混雑対策)


D3

自然遺産における旅行者のふるまい

特に配慮が必要とされる場所における旅行者のふるまいについて、行動規範がリストアップされ、旅行者に向けて周知されていること
① 旅行者に向けて、ポジティブな行動を推奨していること(マナー啓発)
② 問題が生じている場合、対策を講じていること(マナー違反対策)
③ ツアーガイドを対象に、旅行者へのマナー啓発を促進するための研修があること


D4

生態系の維持

生息・生育地、野生生物、生態系を保護し、外来種の侵入を防ぐための体制を整えていること
① 脆弱で絶滅が危惧される野生生物やその生息・営巣地・生育地の一覧が作成されていること
② 環境への影響の調査を行い、生態系、野生生物を保護する取組があること
③ 外来種に関するリストを作成し、侵入を防ぐための体制があること


D5

野生生物の保護

野生生物の保護、採取、捕獲、展示、販売を管理する基準や規則があること
① 野生生物の保護等に関して観察、餌付け等に関する規則があること


D6

動物福祉

認可され適切に配置された人員による正規の事業活動以外、野生種は入手、飼育、捕獲されず、全ての野生動物及び家畜の飼育と取扱いは、動物福祉に対応していること
① 観光事業者とガイドに対して、法律、規制及びガイドラインを周知していること


D7

省エネルギー

観光地域におけるエネルギー消費量の削減と効率性の改善及び再生可能エネルギーの使用について目標値を定めていること
① エネルギー消費量を定期的にモニタリングし、削減するための取組があること
② 化石燃料の依存度を低減し、再生可能エネルギーの使用を促進する政策や取組があること


D8

水資源の管理

水資源の使用量の測定、監視、削減を行う、事業者向けの取組があること
① 事業者が、節水に努めていること


D9

水質

飲用、レクリエーションに利用する水の質は、(条例、基準などに沿って)継続的にモニタリングされていること
① 水質に問題があれば、早急に対応策を講じる体制があること
② 使い捨てペットボトルの飲用水の利用から転換を促す、地域における飲料水の水質に関する
旅行者向けの情報があること


D10

排水

浄化槽や廃水処理に関して、定期的にモニタリングをしていること
① 浄化槽等の立地、維持管理、検査について、規則や条例、ガイドラインがあること
② 効果的に処理・再利用する観光事業者を支援する取組があること
③ 排水による地域住民と環境への悪影響を最小にする取組があること


D11

廃棄物

廃棄物処理状況をモニタリングしていること
① 廃棄物削減や再利用、リサイクルに関する観光事業者向けの取組があること
② 再利用またはリサイクルされない廃棄物の最終処分は、安全が確保されていること


D12

温室効果ガスの排出と気候変動の緩和

事業者が、温室効果ガスの排出量をモニタリングし、排出量を削減する取組があること
① 温室効果ガスの排出量をモニタリングし削減する取組があること


D13

環境負荷の小さい交通

域内における環境負荷の小さい交通機関の利用促進プログラムがあること
① 地域内での徒歩や自転車での移動の奨励と安全確保を行っていること
② モビリティの活用に関して、低炭素自動車の導入等により環境に配慮していること


D14

光害(ひかりがい)

光害を最小限に抑える取組及び事業者向けのガイドライン及び支援プログラムがあること
① 光害が発生している場合、その原因を特定し、対策を講じていること


D15

騒音

騒音を最小限に抑える取組並びに事業者向けのガイドライン及び支援プログラムがあること
① 騒音問題が発生している場合、その原因を特定し、対策を講じていること


「日本版持続可能な観光ガイドライン」を取りまとめました